FE88ES-R トールボーイ スワンの設計 [トールボーイスワン]
2010-01-01
FE88ES-Rトール・ボーイ・スワンのポンチ絵
FE88ES-R トール・ボーイ・スワン(TBS)の設計
スーパースワンと付き合って20年が過ぎた。その間ユニットはFE106Σに始まりFE108S→FE108EΣ→FE88ES-Rと渡り歩いてきた。
生涯一途にスーパースワンと考えていたが、ここに来て浮気心が浮上してしも~た。
この年になってバックロードホーンの設計でもないだろうと思いつつ設計に入った。
ということで先ずはポンチ絵を描いてみた、名前はトール・ボーイ・スワン(TBS)と命名した、何処かの放送局??
今回、小生の使った中では最高と思えるユニット FE88ES-Rに出会えた、この素性の良いユニットを充分生かしきる設計を試みたい。 行動力のない小生ではあるが、数ヶ月でトール・ボーイ・スワンを完成させたい。
構 想
1. 変形スワンのバックロードホーンとする。
2. FE88ES-R専用箱をオリジナルで作る。
3. スワンのような首長族ではなく、殆んど首の無い形とする。
以前より思ってはいたが、長い首の上にある頭(空気室)は大きく振られているのでは?
箱を作れば後日検証できる。
*WEB上で首の短いスワン亜種を作成した方々から音像が鮮明で効果ありと書かれているものが多い。
4. スワン系のロード部分の折り返し5回を2回として、トールボーイ型とする。
*小生の思い込みであるが、折り返しを減らすことでホーン内の抵抗を減らせるのでは・・・
5. フラミンゴ&スワンの中間的設計とする。 6. 板厚は18mmとする。
7. 作るのはスーパースワンの亜種である、長岡先生の著書の調査より始めるのが妥当であろう。
8. その他、WEB上の沢山ある記事を参考とさせて戴く。
*スピーカ工作には何よりも経験値が重要である、情報量の多さが決めてか・・・
バックロードホーンの設計
バックロードホーンの設計には、クロスオーバー周波数・スロート断面積・空気室容量のパラメータの決定がまず必要になる。
当たりを付けるための基本乗数と関係式の調査をした。
A. クロスオーバー周波数・スロート断面積・空気室容量の関係式
長岡先生の関係式は
fx = 10 × So / Va ・・・・・・ 1式
fx(Hz) : クロスオーバー周波数
So(c㎡) : スロート断面積
Va(ℓ) : 空気室容量
である。
B. クロスオーバー周波数の決定
FE88ES-Rの周波数特性から見ると140Hzが良いようである。 オリジナル・スピーカー工作45を読むと、長岡先生曰くホーンのロード部・グラスウール等の抵抗で実際よりfxは下がると記してある。又、スワン系では220hz前後のクロスオーバーを取っている。
小生には経験値がないので50Hz前後クロスオーバーを高くとり、fx=190Hzに仮決めした。
C. スロート断面積(So)&絞り率(Sr) の検討
(1) スロート断面積(So)の検討
長岡先生のスロート断面積の計算式は
So = a × a × Pi / (5 × Qo) ・・・・・・ 2式
So : スロート断面積
a : 実効振動半径
Pi : ≒ 3.14
Qo : 最低共振周波数foにおける共振の抑制度合(スピーカ規格を調査)
である。
FE88ES-R の必要なパラメータは
実効振動半径=3.425cm
Qo=0.46
スローと断面積とQoからSoを2式から求めると 16c㎡とでたが近代ユニットでは、この式は必ずしも当てはまらないかも・・・
長岡先生の設計では、実効振動半径が同じでも強力ユニットが開発される度にSoを大きく取る傾向にあった。
スーパーフラミンゴではFE88ES使用でSo=22c㎡となっており、更に強力なFE88ES-R(実効振動半径も大きい)を付けた場合、相当大きなSoでもいけるはずである。
表1.をご覧戴きたい、Soを見るとSo=22〜39c㎡が妥当か?
先人の実装テスト(FE88ES-R)では、スーパースワンとスワンaを比較して、スワンa の方が中域の張出しが良くマッチングしているという記事もある。
適当な落とし処を探るのは大変である。
表1.スワン系(ユニット・エンクロージャ)の比較対照
(2) 絞り率(Sr)の検討
今度はスロート断面積を絞り率(Sr)から当たりをつけて見た。
絞り率の式は
Sr = So /( a × a × Pi )・・・・・・ 3式
Sr : 絞り率
So : スロートの断面積
a : 実効振動半径
Pi : ≒ 3.14
である。
長岡先生の説明では、Sr = 0.3~0.9 に取ればよいと書かれている。
表2.よりスーパースワンにFE88ES-Rを取り付けた時、Sr = 1.14 となり 長岡先生の基本的なパラメータ値から相当に外れてしまう。
それでも小生のスーパースワン&FE88ES-Rの現用機の試聴では全く問題は生じておらず、あるBlogでは最良の組み合わせとも書かれている。ということは、FE88ES-Rは相当にタフな心臓を持っており、相当なヘビーデューティ&広範囲(言い換えればいい加減)なSoにも耐えられると判断した。
これらの結果より、Sr(絞り率)= 1 以上でも良いのではないのか?
又、今回のTBSの設計ではホーンの折り曲げ回数が2回と少なくロードを掛けたときの曲がり抵抗も減り、もっとロードを稼げると思う。
諸々のデータよりスロート断面積は、少なくとも30c㎡以上がベターと考えた。
スロート面積で全体像が決まり、後で調整が効かない場所なので慎重にSoを決める必要がある。
諸々の考察より、スワンaより僅かに絞ったスロート断面積とし、
So = 36c㎡(6×6cm)で計算を進めた。
表2.FE88ES-Rをスワン系につけてのシュミレーション
注)空気室の容量は計算上では、大体この値であり、スピーカの内部に入る部分(マグネット等)・コーン紙の凹みは計算されていない。然るにもう少し実容量は小さくなる。
D. 空気室の容量計算
fx(カットオフ周波数)& So(スロート断面積)が決まれば後は1式にあてはめ計算をするだけである。
Va = 10 × So / fx であるから
Va = 1.9ℓとなる。
スーパーフラミンゴの設計では、Va = 1.6ℓ・ So = 22c㎡となっているので、FE88ES と FE88ES-Rを比較してみても、1.9ℓで妥当と判断した(逃げとして2.0ℓとしておくのも良い)。
Va(空気室容量)≒ 1.9ℓ
とした。
最終的にfx・So・Vaは
fx = 190Hz
So = 36c㎡
Va =1.9ℓ
となった。
E. ホーン計算
エクスポネンシャル曲線をそのまま利用することはできない、できるかもしれないが飛んでもない開口面積のホーンができてしまう。
そこで近似式の4式が考えられた(?) 、スロート面積と開口面積からmを決められるが、これはあくまでエクスポネンシャル曲線に近似させるテクニックである。
S = So × e ^ ( m × L ) ・・・・・・ 4式
S : スロートからの距離(L)のホーン断面積 (c㎡)
So : スロート断面積 (c㎡)
e ≒ 2.718 (自然対数の底)
m : 定数
L : スロートからの距離(cm)
長岡先生の近似式は
S = So × K ^ ( 0.1 × L ) である。
この式では、 K の値を 1.05〜1.105 としている。
ここで4式のホーン計算式で m=0.01とすると、長岡先生のK=1.105の近似式結果とほぼ同じ結果となる。
4式を用いて、SoからLcm離れたエクスポネンシャル断面積?を先ず計算した。
表3.開口断面積計算
F. ホーン設計
スロート断面積が決定したので、これに従いホーン設計を進める。 ここからは、実測と理想値を見比べながら、強度・ホーン長・板厚等を加味して作成者が好きな様に料理する。
組上げ時に容易く制作出来るよう極力曲線部は避け、板厚と板の長さで近似できるように設計してみた。EXCELのグラフ上でシュミレーションし、板の長さと、板厚から思考錯誤してホーン計算した。(表3.参照)
ユニットには相当の余裕があると判断して、少々無理な曲線で設計した。
グラフの赤線で書かれている部分の近似を見ていただけると解るが、途中(グラフ1.⑧⑨⑩)から曲率を僅かに変えたカスケードホーンに近い物にした。
この為、スーパースワン(ホーン長240cm)のホーン長より僅かに短いが、開口面積はほぼ同等とした。
ボン付きを無くすためには、音道を滑らかにする等のコーナー処理・表面処理が必要であろう、板取時に検討する。
グラフ1.TBSホーン断面積グラフ
*縦軸開口断面積(c㎡)、横軸はSoからの距離(cm)で見てください。
*グラフ1 上の①〜⑩は、ポンチ絵と表3.の開口部に対応しています。
G. ホーン設計を終えて感じたこと
ホーン設計で、ホーン内の計算は比較的簡単に出来るが・・・
問題となるのは最終局面のホーンの出口である。
限りなく面積を大きく、且つ長く取れればよいが、それでは部屋全体がホーンの一部となり、風洞実験室に居るようなものである。あまりにも非現実的である。
ホーンでロードされた音は室内に放出されるが、そこには開口面積に対して何十倍もの大面積の空間がある。 又、ホーンの開口、床、壁、室内の容量等も重要なファクターであり、その全体が低音域に影響すると考えられる。
計算上では、ホーンと部屋の境界面は一番の不連続面であり、如何にその部屋の空気を連続的にドライブ出来るかである。
小生のいい加減な実験 "スーパースワン+FE88ES-R 再セッティング" で、壁を利用した方が良い結果を得ることが出来たのは、ここに起因するものと考えられる。
製作後のバックロードホーンの不連続面を如何に連続的に結びつけるか、最終セッティングは頭の痛い課題である。
スピーカは、所詮妥協の産物である・・・ である???
参考図書
長岡鉄男 著
オリジナルスピーカー工作45
週刊FM別冊 音楽の友社
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